2019年旭陵同窓会関西支部講演会始末
島 泰三
「講演の事後報告も講演の一部だから」という阿部支部長の連絡に応えて、昨年10月の鹿児島同学舎(大学生への奨学金と寮も運営)での講演会との比較を試みた。会衆の人数はほとんど同じで、同じ場所で食事があることも雰囲気は似ていた。
話した内容は、旭陵同窓会の「霊長類学的世界史観察」に対して、鹿児島同学舎では「世代をつなぐ出会い」と、どちらも私にとっては初めての題目だった。
私にとって講演は、本を書くことと似ている。その作業は、多くの先人の知識を紹介する大学の講義とはまったく違って、私にとって未知の知的冒険をまとめることである。 本は書き手と読み手が揃って、初めて実体となる。最近作の『ヒト、犬に会う』では、朝日新聞の「折々のことば」で鷲田清一氏に紹介され、毎日新聞で池澤夏樹氏が書評を書いてくれたことで、本の作業が完結した。
同じように、講演では、現場に話し手と聞き手がいるので、お互いの目を見て質疑応答ができる。それは本や論文の編集・査読、そして書評という手続きが同時にできるということで、そこで初めて聞き手と話し手の間に、共有する知的財産ができる。
鹿児島同学舎での講演では、質疑応答の時間が一時間にもなり、質問の挙手はひっきりなしだった。それは、議論するに値すると聴衆が認めたという証拠でもあった。質疑がなかった旭陵同窓会は残念だったが、小林啓祐京大名誉教授と中村榮一彦中17回生から丁寧綿密な手紙が届き、吉川順一さんは9月13日の出版記念会に出席してくださった。
中村氏には「面白きこともなき世に面白く」の下句を「疾風の夢吹き渡るなり」と続けてお返しとしたい。小林先生は現代史の盲点を指摘し、『白村江 古代日本の敗戦と薬師寺の謎』(鈴木治、学生社)を紹介してくださった。日本史解読の手がかりを得た感じがする。小林先生の書斎には、このような本が山積みになっているとか。また、京都へ行く楽しみが増えた。
この『同学舎会報』を読んだ家内は、「こんなに美しい言葉にまとめてくださって」と感動していた。私の元原稿を選択し、講演後の質疑の内容をまとめて、これほどの報告を作り、かつ私の名前で掲載するのが鹿児島県人だった。
総会の風景